中前国際経済研究所(Nakamae International Economic Research)

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2016 / 07 / 07  00:00

新聞掲載情報

2016年7月7日 日本経済新聞『十字路』

供給サイドの改革へ

世界経済の低迷をもたらしているのは、生産性の傾向的低下である。労働力不足が原因ではない。先進国が需要政策にかまけているなかで、供給サイドの劣化が着実に進行していったのである。超金融緩和政策の長期化が、大きい政府と経済構造の硬直化を推し進めた結果だ。

量的緩和を中心とした今回の金融政策の特徴は、資金を民間部門から政府部門へシフトさせるところにある。資本規制が強化され、民間銀行が積極的に貸し出しができないなかで、中央銀行が国債購入を通じて政府部門へ資金を流し続けて行くからだ。

日銀が異例の金融緩和政策を始めた2013年4月以降の3年間で通貨供給量(M3)は100兆円増えたが、このうち日銀が供給するマネタリーベースは228兆円も増えた。結果的に民間金融機関の供給するマネーは128兆円減少している。

これを映して、12年度から15年度にかけての3年間で、国内最終需要(05年価格)は5.2兆円(年率、0.3%)増えたが、このうち政府部門が4.3兆円増えた一方、民間部門は1兆円しか増えていない。金融政策が民間経済を委縮させてきたのである。

官主導の大きい政府の問題は、市場経済に依拠する民間部門を縮小させ、イノベーションや企業の新陳代謝という市場の持つ本来の役割を殺してしまう。米国でも生産性低下は著しく、今年の生産性上昇率はマイナスになるというコンファレンスボードの予測発表後、「生産性」が経済論争の中心になりつつある。

財政や金融による需要政策の行き詰まりから、供給サイドの改革の必要性が認識され始めたのだ。サービス経済にとって必要なのはスモールビジネスが活躍できる市場経済である。英国のEU離脱問題も、ブリュッセルの官僚体制に対する反発、という側面を見落としてはならない。

2016 / 06 / 01  00:00

新聞掲載情報

2016年6月1日 日本経済新聞『十字路』

なぜ円高なのか

ドル高を支えてきたのは、米国経済の相対的な強さである。中国が成長力を失い、日欧経済の低迷が続くなかで、2%程度の安定した成長率を維持してきた米国にマネーが引き付けられたからだ。米国経済が減速し、成長率格差が縮小してくると、為替レートを決定する要因は経常収支の黒字といった、別の要因に変わってくる。

日・米・欧経済に共通する最近の特徴は、労働生産性の伸びがなくなってきていることだ。そうすると、成長率は雇用の伸びだけということになるが、米国の場合、失業率の大幅な低下に見られる需給の逼迫を受けて、雇用の伸びの鈍化は避けられない。

米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの利上げ発言も、市場の投機抑制効果はあっても現実性はないだろう。雇用やインフレ指標は改善してきても、肝心の成長率が低下してきているからだ。為替市場で、成長率格差に代わって、経常黒字が主役になってくるには、この米国経済の減速が確認されなくてはならない。FOMCが利上げのために経済指標の確認が必要だというのと裏腹である。

このことは、米国経済の減速とともに円高が進んでいくことを意味している。これは、日本経済の実体面からみると、大きなチャンスである。輸出企業の生産が国内よりも海外での方が大きくなった状況では、円安が輸出量を増やす効果は極めて小さくなっている。逆に、円安は輸入コストを高め、消費を抑制する。内需主導型経済を目指す為には、円高が必要なのだ。

確かに、円安が企業の海外子会社の円建て利益を押し上げ、株高をもたらしたのは事実だが、株高が消費を増やすという資産効果は働かなかった。米国経済の減速を前向きに捉え、円高に抵抗するのではなく、円高を受け入れ、円高に適応する経済政策が求められるのである。

2016 / 04 / 27  00:00

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2016年4月27日 日本経済新聞『十字路』

米国企業の収益力の低下

米国経済の最大の弱みは、企業収益力の傾向的な低下である。金融緩和政策で消費需要は刺激されても、設備投資が振るわない。低い収益率の下では、実物投資よりも、自社株買いなど金融投資の方が好まれるからである。

リーマン・ショック後の2009年から12年までと12年から15年までのそれぞれ3年間の経済パフォーマンスを比較すると分かり易い。実質GDP成長率は、どちらも年率2.1%で変わらないが、雇用と生産性の伸びの組み合わせが大きく異なってくる。

最初の3年間では、雇用が0.7%、生産性が1.4%伸びたが、後半の3年間では雇用が1.6%、生産性は0.5%しか伸びていない。労働投入が成長をけん引する度合いが一段と高まっている。  

この結果、雇用者報酬(名目)は3.4%から3.9%の伸びとなったが、企業所得(償却後)の伸びは、12.7%から0.3%に大きく落ち込んでしまっている。これを映して、直近の個人消費の伸びは前年比3.2%(名目)だが、設備投資は1.5%に鈍化している。景気後退に入るときの典型的なパターンである。

米国経済の問題は、第一に失業率の大幅な低下に見られるように、労働力の余裕がなくなってきていることだ。さらなる雇用の伸びは賃金インフレを加速させ、利上げを早めることになる。雇用主導の成長の限界である。第二は、企業収益の悪化のなかで、利上げなど金融の正常化が遅れるだけ株価のバブル化が進むことだ。しかし、利上げを早めると株価が下がり、その逆資産効果で消費が落ちてくる。いずれにせよ、成長率は低下して行かざるを得ない。

金融政策の行詰りである。一時的な不況を覚悟してでも、金融の正常化を急ぐべきなのだが、それができない。結局のところ、市場の決定に委ねるしかないのだろう。

2016 / 03 / 30  00:00

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2016年3月30日 日本経済新聞『十字路』

中国、その債務の大きさ

バブルをもたらすのは債務の異常な増加である。これが限界を迎えるのは、収益見通しが悪化し、貸し手が投融資の拡大に不安を覚えてくるからだ。債務の増加が止まり、投資が落ちてくると、経済は急減速し、債務の過剰と不良化が表面化してくる。

リーマン・ショック直後の2009年から15年第3四半期にかけて、国際決済銀行(BIS)の推計によると、中国の非金融企業の債務は6.2兆ドルから17.4兆ドルへと11.2兆ドル増えた。この間の名目国内総生産(GDP)の増加は5.4兆ドルである。GDPを1兆ドル増やすのに、企業部門だけで2兆ドル強の債務増を必要とした。

これに対して、世界(BIS報告国全体)のGDPは11.7兆ドル、債務は12.4兆ドルの増加だ。中国は世界GDP増加の46%、企業部門債務増加の90%を占める。

この企業部門による11兆ドルの債務増が不動産を含む設備の過剰を生んだ。問題は、設備稼働率が大きく下がり、在庫も増える中で不良債権が増加してきていることだ。生産者物価上昇率が前年比マイナス5.3%で、都市部の1人当たり可処分所得(賃金上昇率に近い)の伸びが6.8%という中では、大半の企業が赤字経営のはずだ。不良債権が増加する銀行の貸し出し余力の低下もあって、企業金融は急速に引き締まってくる。

設備過剰もそうだが、債務の過剰は、その増加額でみても、GDP比でみても、1990年代の日本のバブルをはるかに上回っている。中国経済は明らかに長期停滞に入っている。原油価格などの反発はあっても、これが持続する条件はないのである。

中国の工業化の終わりと共に、モノの世界の収縮は続いていかざるを得ないのだが、そのなかで金融市場の収縮もまた避けられそうにない。世界的な金融不安はこれからが本番なのではないか。

2016 / 02 / 18  00:00

新聞掲載情報

2016年2月18日 日本経済新聞『十字路』

マイナス金利の効用

バブルをもたらすのは債務の異常な増加である。これが限界を迎えるのは、収益見通しが悪化し、貸し手が投融資の拡大に不安を覚えてくるからだ。債務の増加が止まり、投資が落ちてくると、経済は急減速し、債務の過剰と不良化が表面化してくる。

リーマン・ショック直後の2009年から15年第3四半期にかけて、国際決済銀行(BIS)の推計によると、中国の非金融企業の債務は6.2兆ドルから17.4兆ドルへと11.2兆ドル増えた。この間の名目国内総生産(GDP)の増加は5.4兆ドルである。GDPを1兆ドル増やすのに、企業部門だけで2兆ドル強の債務増を必要とした。

これに対して、世界(BIS報告国全体)のGDPは11.7兆ドル、債務は12.4兆ドルの増加だ。中国は世界GDP増加の46%、企業部門債務増加の90%を占める。

この企業部門による11兆ドルの債務増が不動産を含む設備の過剰を生んだ。問題は、設備稼働率が大きく下がり、在庫も増える中で不良債権が増加してきていることだ。生産者物価上昇率が前年比マイナス5.3%で、都市部の1人当たり可処分所得(賃金上昇率に近い)の伸びが6.8%という中では、大半の企業が赤字経営のはずだ。不良債権が増加する銀行の貸し出し余力の低下もあって、企業金融は急速に引き締まってくる。

設備過剰もそうだが、債務の過剰は、その増加額でみても、GDP比でみても、1990年代の日本のバブルをはるかに上回っている。中国経済は明らかに長期停滞に入っている。原油価格などの反発はあっても、これが持続する条件はないのである。

中国の工業化の終わりと共に、モノの世界の収縮は続いていかざるを得ないのだが、そのなかで金融市場の収縮もまた避けられそうにない。世界的な金融不安はこれからが本番なのではないか。

2024.11.26 Tuesday