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2016年6月1日 日本経済新聞『十字路』
『なぜ円高なのか』
ドル高を支えてきたのは、米国経済の相対的な強さである。中国が成長力を失い、日欧経済の低迷が続くなかで、2%程度の安定した成長率を維持してきた米国にマネーが引き付けられたからだ。米国経済が減速し、成長率格差が縮小してくると、為替レートを決定する要因は経常収支の黒字といった、別の要因に変わってくる。
日・米・欧経済に共通する最近の特徴は、労働生産性の伸びがなくなってきていることだ。そうすると、成長率は雇用の伸びだけということになるが、米国の場合、失業率の大幅な低下に見られる需給の逼迫を受けて、雇用の伸びの鈍化は避けられない。
米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの利上げ発言も、市場の投機抑制効果はあっても現実性はないだろう。雇用やインフレ指標は改善してきても、肝心の成長率が低下してきているからだ。為替市場で、成長率格差に代わって、経常黒字が主役になってくるには、この米国経済の減速が確認されなくてはならない。FOMCが利上げのために経済指標の確認が必要だというのと裏腹である。
このことは、米国経済の減速とともに円高が進んでいくことを意味している。これは、日本経済の実体面からみると、大きなチャンスである。輸出企業の生産が国内よりも海外での方が大きくなった状況では、円安が輸出量を増やす効果は極めて小さくなっている。逆に、円安は輸入コストを高め、消費を抑制する。内需主導型経済を目指す為には、円高が必要なのだ。
確かに、円安が企業の海外子会社の円建て利益を押し上げ、株高をもたらしたのは事実だが、株高が消費を増やすという資産効果は働かなかった。米国経済の減速を前向きに捉え、円高に抵抗するのではなく、円高を受け入れ、円高に適応する経済政策が求められるのである。