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2017 / 02 / 10  00:00

新聞掲載情報

2017年2月10日 日本経済新聞『十字路』

なぜ貿易赤字が問題なのか

トランプ政権の通商チームが強調するのは貿易赤字の解消である。赤字の解消を目指すことによって、設備投資を促進し、製造業を中心とした成長率の押し上げと、生産性の上昇を図ろうというのだ。

2016年の赤字は7500億ドルと国内総生産(GDP)18.5兆ドルの4%である。赤字を4年間で解消すれば、毎年成長率を1%押し上げることができる。

それよりも重要なのは、この赤字が製造業のGDP2兆ドル強の30%超の大きさであることだ。設備能力を30%強増強し、増産しなくては赤字は解消しない。米国企業だけでなく、外国企業に対しても、米国内への投資を求めることになる。

もう一つの問題は、リーマン・ショック後の生産性上昇率の低下である。10年から15年の民間部門の生産性上昇率は0.1%と、ショック前(00年から10年)の年率1.9%から低下した。製造業で5.4%からマイナス0.3%に低下したのが主因である。

これをさらに掘り下げてみると、付加価値生産額の上昇率は1.3%から1.0%へとほぼ横ばいだが、雇用がマイナス3.9%からプラス1.3%に大きく増えている。つまり、生産性の低い産業で生産と雇用が増えたのだ。米国は、生産性の低い製造業とサービス業の拡大に支えられた、効率の悪い経済になってしまったのである。

トランプ流の関税政策はむちゃだが、共和党議会が推進する国境税を含めた税制改革は、米国に投資を呼び戻し、消費から投資へ、と経済を変えていく有効な手段となりうる。しかし、これは赤字を減らしても、雇用を増やす効果はほとんどない。AI化の下で、投資の雇用創出効果が加速度的に小さくなっているからだ。それでも製造業の強化は、米国の赤字をベースに成長してきた世界経済を大きく変えることになるだろう。

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2024.03.19 Tuesday