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2016年1月19日 日本経済新聞『十字路』
『米国経済は万全か』
資産バブルの背景には、実体経済の低迷がある。経済の見通しに確信がないなかでは、金融緩和政策は投機的な金融投資を刺激し、資産価格と実体経済の乖離(かいり)をもたらす。中国のように経済の先行きに過剰な期待があると、これは設備投資など実体経済への過大な投資となる。
株価の上昇に見られる米国の資産バブルについてみると、リーマン・ショック後の量的金融緩和政策は、所得を増加させる効果は小さかったが、資産増加効果は異常に大きかった。2009年3月から、15年9月までの6年半の間に、家計の可処分所得は10.9兆ドルから13.5兆ドルに2.6兆ドル増えたが、この間の家計の純資産(住宅を含む)の増加は、55兆ドルから85兆ドルと30兆ドルにも達している。
年平均5兆ドル近い資産の増加をもたらした主役は株価の上昇である。ここでは、事業会社の自社株買いの効果が大きい。この間に米国株式を買い越したのは、信用買いを除くと、自社株買い(M&Aを含む)だけなのだ。この自社株買いと配当支払額がフリーキャッシュフローを上回った分だけ、社債発行で債務を増大させてきたのである。
自社株買いによる株数の減少によって、1株当たり利益が上昇し、株価が企業の実力以上に押し上げられた。問題は、経済の減速で減収減益傾向が目立ってきた上に、社債市場を先頭に金融が引締まってきていることだ。資産バブルの度合いは、家計部門純資産の対可処分所得比651%(15年3月)という数字に示されている。これは、1999年のITバブル、07年の住宅バブルのピークを上回っている。
中国の投資バブルの崩壊懸念に目を奪われているなかで、世界経済の最後の砦(とりで)とされる米国で、これだけ大きなリスクがあることを見逃してはなるまい。