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2016年10月12日 日本経済新聞『十字路』
『石油価格と中国』
石油価格を決定する主要因は需要である。供給は、短期的にはともかく、長期的なトレンドを形成することはできない。1980年代と2008年以降と、原油価格は2度暴落しているが、いずれも原油の増産が原因ではない。需要が落ちたからだ。逆に2000年代初頭の価格上昇の背後には、中国を先頭とした新興国需要の急増があった。
今世紀に入ってからの世界経済の成長は、中国によってけん引されてきた。工業生産額(10年価格・世界銀行)でみると、00年から15年にかけて、世界全体では13.2兆ドルから19.4兆ドルと6.2兆ドル増えたが、そのうち中国は0.8兆ドルから4.1兆ドルへと約3.4兆ドル増え、全体の増加分の55%を占め、この間、ドイツ、日本、米国を一気に抜き去ってしまった。
セメントの生産量でみると、01年の6億トンから15年には23.5億トンと4倍の増加だ。20世紀の米国の生産量が43億トンだから、中国は2年で米国の100年分を生産したことになる。鉄鋼などもそうだが、この過剰生産、過剰設備をみると、中国の生産活動がこれから大きく落ち込むことは避けられない。
こういった中国の急成長の下での石油需要を振り返ってみると、00年から15年にかけて、世界の石油消費量(BP統計)は日量7700万バレルから9500万バレルへと1800万バレル、年率1.4%増のペースで増加した。中国の場合は470万バレルから、1200万バレルへと730万バレル、年率6.4%増の勢いで、全体の増加分の41%を占める。この消費量が、これから長期にわたって大きく落ちてくるはずだ。
先進国の消費量が好不況にかかわらず、落ち続けている中では、産油国による減産合意の効果も一時的で、モノの世界のデフレは続いていくだろう。消費主導型の経済を目指す先進国にとって、これは朗報である。