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2017年4月12日 日本経済新聞『十字路』
『本当に利上げできるのか』
物価上昇の主要因は、賃金と石油と家賃である。リーマン・ショック以降の10年近い異常な超金融緩和政策のゆがみからきたものだ。実態経済の好転(生産性の上昇)ではなく、国際商品相場と不動産市場における再度のバブルと労働需給の逼迫からインフレが生み出されたのである。
問題はこのインフレ的傾向の持続性である。米国の消費者物価指数の直近の伸びは、前年比2.7%だが、エネルギーと食品を除くコア指数は2.2%、エネルギー価格の上昇が0.5%ポイント貢献している。指数の30%強を占める家賃を除くコア・コアは1.3%と、家賃上昇の効果が0.9%ポイントで、賃金上昇の効果はいまだそれほど大きいものではない。基調としての物価上昇率が落ち着いているのに、インフレの加速が懸念されるのは、失業率の低下にみられる労働需給の逼迫を予想するからである。
短期的にはともかく、中長期的には、これは当てはまらない。AI化が加速してきているからである。トランプ大統領は輸入によって雇用が奪われていると主張するが、AI化、合理化による効果が圧倒的に大きいというのが現実的な見方だ。不動産市場についても、最も値上がりが大きかったニューヨークなどで値下がりが始まっている
中国の過剰投資、過剰生産の調整には、数十年単位での時間が必要なことは、日本の経験からみても明らかだが、これは素原材料への需要がこれから大きく落ち込むことを意味している。金融緩和マネーが鉄鉱石や石炭の価格を急上昇させ、在庫が記録的な高さにまで積み上がるようなことが続くはずもない。
このように見ていくと、昨年もそうだったが、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを2回も3回もやれると考えるには無理がある。中央銀行の市場誘導的アプローチには冷静に対応すべきだろう。