中前国際経済研究所(Nakamae International Economic Research)

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2017 / 06 / 16  00:00

新聞掲載情報

2017年6月16日 日本経済新聞『十字路』

成長制約と技術革新
 米国経済の成長を阻むのは、供給制約と需要の成熟だ。雇用と生産性の伸びが鈍化して潜在成長率が低下した一方、緩やかとはいえ回復から9年目に入った経済では、消費を中心に需要が低迷していくのは当然だからだ。この状況を打破しようとする成長戦略の柱は、設備投資を刺激して生産性を引き上げるための税制改革だが、政局不安で実現の見込みがたっていない。
 リーマン・ショック後の米国経済の特徴は、生産性が急速に低下したことである。直近の伸び率でいうと、労働投入量1%に対して、生産量は1.4%と、生産性は0.4%しか上昇していない。労働投入量の増加分しか経済が伸びなくなっているのだが、少子高齢化の傾向から、これが改善する見込みはない。 
 こういった中で実質賃金は、0.4%しか伸びていない。それでも消費が堅調で、経済をけん引してこられたのは、消費者ローンが伸びたからだ。家計の債務残高はリーマン・ショック前のピークを上回ってきている。ここでも債務負担の増加とともに銀行の貸し出しが落ち始めている。
 このような成長制約の中で、問題を一段と大きくしているのが、資産バブルだ。不動産や株価の値上がりで、家計の資産は負債の増加を上回って増え、可処分所得に対する純資産の比率は660%と、史上最高を更新している。実体経済にデフレ化の懸念があっても、勇気ある中央銀行なら引き締めに転じるべきだが、決断できないだろう。
 それでも局面を打開するのは技術革新だ。人手不足には人工知能(AI)化で対処し、パリ協定を離脱しても、シェール・ガスや自然エネルギーのコストの急速な低下で石炭の復活を食い止め、政治を超えて、パリ協定以上の成果をもたらすだろう。この変化は希望がもてるものだが、これ自体がデフレ要因となることを看過してはならない。
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2024.03.19 Tuesday