新着情報
2017 / 10 / 30 00:00
ホームページ リニューアルのお知らせ
2017年10月30日、中前国際経済研究所のホームページをリニューアルしました。
より使いやすく、よりわかりやすいホームページとなるよう、ページ構成やサイトデザインを全面的に見直しました。
リニューアルにあたり、トップページのアドレス(http://www.nier.co.jp/)に変更はありませんが、
トップページ以外 のページについては、アドレスが変更になっております。
各ページをブックマーク等に登録されている方は、お手数をおかけしますが変更をお願いいたします。
今後とも、内容の充実を図るとともに、よりわかりやすい情報をタイムリーに発信してまいりますので、
何卒よろしくお願い申し上げます。
2017 / 10 / 05 00:00
新聞掲載情報
2017年10月5日 日本経済新聞『十字路』
『経済ナショナリズムの論理』
グローバリゼーションの後退は、貿易依存度の低下に表れる。企業の多国籍化が進み、地産地消が定着してきた結果である。中国など新興国の賃金の上昇や、AI化の加速による国際間の賃金格差が縮小したことも大きい。
対外直接投資も、生産や輸出基地として中国に投資する時代から、中国の需要にのみ対応する投資に限定されてきた。中国の輸出依存度は2007年の35%から直近では19%まで下がり、経常黒字の国内総生産(GDP)比も10%から1.5%に低下した。
経済成長率の急低下に見られるように、過剰設備と過剰債務の負担が大きく、中国も消費を中心とした内需の拡大に向かわざるをえない。金融緩和による不動産投資の刺激は、バブルを加速するだけだからである。
グローバリゼーションの下で、先進国は企業の国際競争力の強化を掲げ、金融緩和による通貨安と減税による企業優遇政策をとったが、国内需要の創出に失敗し、結果的に企業の多国籍化を促進しただけであった。
他方で財政赤字を補填するための消費税などによる家計負担の増大は、消費を低迷させてきた。このような負の政策の連鎖を逆にして、消費の活性化をはかることが、新たな国際競争の主戦場になろうとしている。経済ナショナリズムである。
消費が強くなると企業の国内売り上げは増え、賃金の引き上げが可能となり、これがまた消費を強くするという好循環を生み出す。我が国でいえば、国内でしか生きていけない中小企業や自営業を活性化させていくだろう。
そのために何をなすべきか。最も有効なのは、消費税の撤廃であり、貯蓄利回りの引き上げである。財政赤字には、巨額の資金余剰を生み出している企業への増税で対応すればよい。企業も結果的に潤ってくるのだから。
2017 / 09 / 01 00:00
新聞掲載情報
2017年9月1日 日本経済新聞『十字路』
『消費減税と企業増税』
国内経済を活性化させるには、国内需要、とりわけ消費を増やしていく必要がある。法人税制を変えても、企業は需要のないところでは投資をしない。勝ち組企業が、さらに大きな需要を求めて海外で投資を拡大していくのは当然だからである。
消費を増やすには家計の税負担を大幅に軽減する一方、企業の負担を増やし、これまでの分配政策を逆転させることが必要だ。可処分所得を増やして消費を伸ばし、国内企業の賃上げを可能にする好循環に持ち込むのだ。
消費を増やし、国内経済の活性化を図ることは、技術革新の加速への対応としても重要だ。技術革新が企業間格差をさらに拡大させるからである。トップ企業とその他企業との間で、生産性上昇率の格差が拡大し、それが利益と賃金に反映される。
グローバリゼーションの下で労働分配率が下がり、誤った分配政策と相まって、家計の可処分所得の低下が続く。その中で企業間の格差拡大が、所得格差の進行を一段と大きくしていく。経済ナショナリズムが台頭してくるのは、勝ち組企業の大半が多国籍化を加速させるのに対して、国内企業の大半を負け組として放置してきたからだ。
日本の場合でいうと、1人当りの付加価値額(法人企業統計年報、2015年度)は大企業で1530万円、中小企業で570万円、零細企業で410万円である。1人当たり人件費は、それぞれ680万円、390万円、300万円。従業員数でいうと、大企業680万人、中小企業2160万人、零細企業1020万人だ。
投資には課税せず、消費を抑圧する消費税の欠陥は、消費に頼るこれら中小企業にとって大きな負担となる。消費税を社会保障費と連動させるのではなく、消費喚起の観点から、考え直すことが求められているのではないか。
2017 / 07 / 26 00:00
新聞掲載情報
2017年7月26日 日本経済新聞『十字路』
『消費はいかに低迷してきたか』
消費が低迷してきたのは、経済成長が止まったなかで、労働分配率の低下と、家計の税と社会保険料負担の上昇が続いてきたためだ。法人減税ではなく、家計減税こそ求められているのである。
国内総生産(GDP)統計を実態をより良く表すように、現金のやり取りを伴わない持ち家の帰属家賃等を除いたキャッシュフロー・ベースに整理し直してみよう。
日本の名目GDPは、1997年の498兆円をピークに2015年の488兆円まで、10兆円減少した。一方、家計の消費は244兆円から250兆円に6兆円増加した。だが、その裏には貯蓄の56兆円から22兆円までの急減という代償がある。
家計の賃金と財産所得という第1次所得バランスでみると、賃金俸給と自営業者の混合所得がそれぞれ22兆円、19兆円減少し、財産所得も5兆円減っている。合計で15年の家計の所得バランスは263兆円と、97年の309兆円から46兆円も減少した。
さらに問題なのは、家計の税負担の上昇である。所得税など経常税の29兆円に加えて、社会保険料の負担37兆円、合わせて66兆円は、修正した第1次所得バランス263兆円の25%になる。97年には20%であった。
もう一つ大きいのは、消費税などの間接税の増加である。間接税は最終消費者である家計がその大半を負担する。それを15年の間接税41兆円の7割強(国内最終消費に占める家計消費の割合)、30兆円とすると、家計消費250兆円といっても、実際の消費は220兆円でしかない。
この間、状況が改善したのが企業部門である。労働分配率の低下を映して、収益が増えただけでなく、固定資本減耗の増加にみられる非課税のキャッシュ・フローが大きく増え、貯蓄は家計を超えている。減税が必要なのは、企業よりも家計なのである。
2017 / 06 / 16 00:00
新聞掲載情報
2017年6月16日 日本経済新聞『十字路』
『成長制約と技術革新』
米国経済の成長を阻むのは、供給制約と需要の成熟だ。雇用と生産性の伸びが鈍化して潜在成長率が低下した一方、緩やかとはいえ回復から9年目に入った経済では、消費を中心に需要が低迷していくのは当然だからだ。この状況を打破しようとする成長戦略の柱は、設備投資を刺激して生産性を引き上げるための税制改革だが、政局不安で実現の見込みがたっていない。
リーマン・ショック後の米国経済の特徴は、生産性が急速に低下したことである。直近の伸び率でいうと、労働投入量1%に対して、生産量は1.4%と、生産性は0.4%しか上昇していない。労働投入量の増加分しか経済が伸びなくなっているのだが、少子高齢化の傾向から、これが改善する見込みはない。
こういった中で実質賃金は、0.4%しか伸びていない。それでも消費が堅調で、経済をけん引してこられたのは、消費者ローンが伸びたからだ。家計の債務残高はリーマン・ショック前のピークを上回ってきている。ここでも債務負担の増加とともに銀行の貸し出しが落ち始めている。
このような成長制約の中で、問題を一段と大きくしているのが、資産バブルだ。不動産や株価の値上がりで、家計の資産は負債の増加を上回って増え、可処分所得に対する純資産の比率は660%と、史上最高を更新している。実体経済にデフレ化の懸念があっても、勇気ある中央銀行なら引き締めに転じるべきだが、決断できないだろう。
それでも局面を打開するのは技術革新だ。人手不足には人工知能(AI)化で対処し、パリ協定を離脱しても、シェール・ガスや自然エネルギーのコストの急速な低下で石炭の復活を食い止め、政治を超えて、パリ協定以上の成果をもたらすだろう。この変化は希望がもてるものだが、これ自体がデフレ要因となることを看過してはならない。