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2019 / 05 / 22 22:00
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2019年5月15日 日本経済新聞『十字路』
『2020年代の日本経済』
米中貿易摩擦の示すのは、貿易依存度の傾向的低下である。1990年代以降のグローバリゼーションが終わり、地産地消型のローカライゼーションが進行してきていることの反映でもある。
ローカライゼーションが進むのは、経済のサービス化のためだ。サービス産業は工業ほど貿易を必要としない。実際、中国の輸出依存度は、2007年の36%をピークに18%程度にまで落ちている。
中国や新興国の工業化を支えた多国籍企業も、ほとんどの市場に工場を持つようになった。これも貿易の必要を減じる役割を果たしている。
貿易に期待が持てないなかでは、内需を拡大するより経済を成長させる方策はない。これまで消費を限界近くまで伸ばしてきた米国の場合は財政の出動を求めることになるが、我が国のように消費が低迷してきた場合には、家計の可処分所得を増やし、消費を刺激していくことが必要だ。
生産性を引き上げるという供給サイドの議論は重要だが、当面必要なのは、需要サイドの刺激策である。国際競争力を強化するための企業ファーストから家計ファーストに政策を切り替えていかなくてはならない。消費の拡大がなければ、経済の低迷が一段と進まざるを得ないからだ。
米中と違って我が国が幸運なのは、内需を拡大しても、国際収支上の懸念がないことである。また家計所得を増やす手段にも事欠かない。消費税を廃止し、企業増税で対応できるし、利上げで利子所得を増やし、円高で実質購買力を引き上げることもできる。
そうすれば、消費が増え、企業の売り上げは増え、賃上げも可能になってくる。20年代の世界は、米中をはじめとして成長の低迷が続くことが予想されるが、我が国だけはいち早く持続的な成長に戻れるだろう。政治の決断ができる状況を待つだけだ。