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2019 / 03 / 03 17:30
新聞掲載情報
2019年3月3日 日本経済新聞『十字路』
『金融正常化路線の行き詰まり』
金融正常化政策が行き詰まり、利上げと量的引き締めを止めたからといって、米国経済が減速から加速に転じるわけではない。実体経済の減速をもたらしたのは、好況が長期にわたり続き、この間に債務が異常に拡大したからだ。
景気のさらなる減速や株価の下落に反応して中央銀行が再び緩和政策に転換しても、経済を加速に導くことはできないだろう。現在の中国が好例だ。景気の落ち込みと米国との貿易摩擦が重なり、先行きが見通せない。こうしたなか金融政策の緩和と、米中貿易摩擦の妥協が近いという見方から株価は大きく反騰している。問題はこの持続性だ。
中国の基本課題は、経済の投資主導型から消費主導型への転換だ。ここで制約となるのが、工業化を急ぎ過ぎた結果としての過大投資と過剰債務である。
脱工業化のなかで貿易黒字が縮小。海外からの直接投資も減り国際収支が苦しくなってしまった。一段の金融緩和は資本の流出につながり人民元安を招くが、金融を緩めなければ企業倒産が続出する。サービス化経済に向けた投資の前に、過去の債務が重荷となるのである。
米国でも金融政策の正常化ができず、緩和状態を長引かせれば、日本のように金融機関が立ち行かなくなる。それでも資産価格の下落を恐れて、何も決めない先送りをすれば、市場の崩壊を待つだけとなる。
それよりも大きな問題は、ポピュリズムの左傾化、社会主義化だ。富裕税の新設、所得税の最高税率の大幅引き上げや教育費の無償化、医療費の公的補助といった非市場的な「大きい政府」志向である。その意図は良いのだが、経済の非効率化は避けられない。市場経済の枠を守りながら成長戦略は描けないのか。今後、バブルが崩壊した後の最大の課題である。