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2018 / 06 / 08 07:00
新聞掲載情報
2018年6月7日 日本経済新聞『十字路』
『ポピュリズムを侮るな』
ポピュリズムの台頭は、エリート層による統治の長期にわたる失政に起因する。経済の活力が構造的に失われた結果といってもよい。これまでの半世紀を振り返ってみると、家計所得が伸びなかったことが最大の問題である。
米国の実質賃金を製造業労働者の時給でみると、1970年以降、ほぼ半世紀にわたって横ばいである。(年率0.1%)。実質国内総生産(GDP)は2.8%、消費は3.0%伸びている。賃金が伸びないなかで、GDPを上回って消費が伸びたのはマネーの持続的な増加によって、住宅ローンや消費者ローンが増え、他方で住宅価格や株価の上昇による資産効果が大きかったからである。
このバブル的な経済の成長は、2つの面で限界を迎えようとしている。1つは、資産バブルの行き過ぎである。富裕層に限られているとはいえ、家計資産は可処分所得の6.7倍にも達している。
もう1つは、債務の増大である。米国の債務は、1970年のGDP比147%から、2008年には380%まで上昇し、その後、直近の347%まで低下したものの、異常に高いままだ。また、長期にわたるマネーの増大は、ドル安を通じて、米国からの資本流出を促しただけでなく、新興国が大胆な金融緩和政策を採ることを可能にし、その成長を加速させてきた。中国がその典型である。
米国の金融正常化は、すでにスタートして2年半が経っているが、着実にファンダメンタルズの弱い新興国や企業の資金繰りを悪化させている。トルコやアルゼンチンの通貨下落や金利の急上昇だけでなく、中国でも社債のデフォルトが増え始めている。
過剰債務が世界中にはびこるなかで、ドル不足は着実に進行してきている。ポピュリズムの火はますます拡がって行くだろう。