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2016年4月27日 日本経済新聞『十字路』
『米国企業の収益力の低下』
米国経済の最大の弱みは、企業収益力の傾向的な低下である。金融緩和政策で消費需要は刺激されても、設備投資が振るわない。低い収益率の下では、実物投資よりも、自社株買いなど金融投資の方が好まれるからである。
リーマン・ショック後の2009年から12年までと12年から15年までのそれぞれ3年間の経済パフォーマンスを比較すると分かり易い。実質GDP成長率は、どちらも年率2.1%で変わらないが、雇用と生産性の伸びの組み合わせが大きく異なってくる。
最初の3年間では、雇用が0.7%、生産性が1.4%伸びたが、後半の3年間では雇用が1.6%、生産性は0.5%しか伸びていない。労働投入が成長をけん引する度合いが一段と高まっている。
この結果、雇用者報酬(名目)は3.4%から3.9%の伸びとなったが、企業所得(償却後)の伸びは、12.7%から0.3%に大きく落ち込んでしまっている。これを映して、直近の個人消費の伸びは前年比3.2%(名目)だが、設備投資は1.5%に鈍化している。景気後退に入るときの典型的なパターンである。
米国経済の問題は、第一に失業率の大幅な低下に見られるように、労働力の余裕がなくなってきていることだ。さらなる雇用の伸びは賃金インフレを加速させ、利上げを早めることになる。雇用主導の成長の限界である。第二は、企業収益の悪化のなかで、利上げなど金融の正常化が遅れるだけ株価のバブル化が進むことだ。しかし、利上げを早めると株価が下がり、その逆資産効果で消費が落ちてくる。いずれにせよ、成長率は低下して行かざるを得ない。
金融政策の行詰りである。一時的な不況を覚悟してでも、金融の正常化を急ぐべきなのだが、それができない。結局のところ、市場の決定に委ねるしかないのだろう。