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2016年9月7日 日本経済新聞『十字路』
『金利は実体経済が決める』
金融市場の方向を決定するのは、実体経済である。経済が成長力を取り戻し、物価が上昇してくれば金利は上昇する。経済が不況化し、物価が低迷を続けると、一般的な金利水準は低位安定を続けても信用力の低い社債から利回りが上昇する。デフレ経済の下では、企業のデフォルトが増えていくからだ。当然、銀行の不良債権も増加していく。
リーマン・ショックまでの世界経済は、米国の消費と中国の投資にけん引されてきた。1990年代以降、旧共産圏が市場経済に参加し、グローバリゼーションが加速した。先進国の企業が安い賃金を求めて中国に投資し、その生産物を米国が輸入して消費するという関係である。米国製造業の雇用は中国にシフトし、代わりに低賃金のサービス業の雇用が拡大した。
賃金上昇が抑制された米国では、消費の伸びを支えるために、家計の債務が急増し、所得の伸びを超える消費ブームがもたらされた。中国では、投資が異常に拡大して、資源価格の高騰をもたらしただけでなく、低価格商品の輸出の急増で、米国の消費者の購買力を増す一方で、デフレ圧力を加えていった。
中国が投資ブームの結果、過大設備と過大債務の問題を抱え込み、成長率の急激な低下に見舞われ、米国では消費ブームの下で生産性の上昇率が大きく下がり、両者共に富を生み出す力を失ってきている。米国は生産性を上げるための投資を、中国は過剰投資から消費へという構造調整を求められることになったが、実際には、金融、財政を極限まで使った需要政策で、米国は消費を、中国は投資を刺激し続けている。
これでは、世界経済の成長は望めず、デフレ的傾向は続かざるを得ない。債務問題がもたらす信用リスクと先行き不安からくる長期金利の上昇が、中央銀行の思惑を超えて、顕在化してくるだろう。