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2017年1月4日 日本経済新聞『十字路』
『米国第一主義のリスク』
米国経済の低迷の背後にあるのは、生産性上昇率の傾向的低下である。この生産性の低下をもたらしたのは、設備投資の減少だが、企業が低賃金を求めて、国内よりも新興国での投資を選んだからだ。新政権と共和党議会による供給サイドの改革が目指すのは、この投資の国内回帰である。
消費から生産(投資)へ、輸入から輸出へ、の転換をもたらす税制改革が中心となる。そのなかで、法人税率の現行35%から20%への引き下げ以上に注目されるのは、税の国境調整である。
消費税のない米国では、欧州や日本のように、輸出をしても消費税の還付を受けられず、輸入には税金がかからない。消費を優遇し、生産に冷たい。この部分の改革が衝撃的である。輸入額を経費控除させず、輸出額を売上計上せず、という形となるようだが、その場合、輸入についていえば、20%(法人税率)の関税がかかったのと同じ効果となるからだ。
当然ながら、米国での生産が刺激され、輸入が減少し、貿易赤字は急速に解消していくだろう。それでも米国経済が活力を本格的に取り戻すには十分ではない。この改革が製造業を再生することは間違いないが、経済の大半を占めるサービス産業の生産性を引き上げる処方箋にはなっていないからだ。
それよりも問題なのは、新興国を先頭にその他世界に与える負の影響である。対米輸出が減少し、経済の不況化が速まるだけではない。米国の貿易赤字の縮小とともに、ドル不足によって世界の金融が締まってくる。債務残高が伸び切っている状況で、ドル高や金融逼迫が起こると、国際金融危機は避けようがない。
米国経済が、この改革によって、活力を取り戻せたとしても、その他世界には極めて厳しい展開となる。米国第一主義の最大のリスクである。