中前国際経済研究所(Nakamae International Economic Research)

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2018 / 10 / 16  07:00

新聞掲載情報

2018年10 月5日 日本経済新聞『十字路』

『米国経済は本当に強いのか
 米国金利の上昇と、量的引き締めが新興国の通貨危機を招いている。外資に頼った急激な工業化が持続できなくなってきたのだ。新興国の経済は、2020年代にかけて、日本が経験したような長期低迷の時代に入るだろう。
 この新興国経済の低迷は米国をはじめとする先進国にとって2つの問題をもたらす。第1は、多国籍企業の業績の悪化である。先進国の立場からすると資本財輸出の減少である。第2は、エネルギーをはじめとする資源価格の下落がもたらすデフレ効果である。
 金融の引き締めは、先進国の資産バブルも潰していく。不動産価格の下落が始まると、米国消費者物価の上昇を支えてきたエネルギーと家賃という二大要因が消えていくことになる。
 このような状況の下では、賃金上昇もそれほど大きなものは期待できないが、物価上昇率が下がってくると、実質賃金は上昇してくる。最近の賃金が3%近くまで上昇してきても、物価も同じように上昇して、実質賃金が伸びないのと逆になるのだ。
 これは企業収益の低下をもたらす。加えて貿易戦争の結果として、企業のコストは想定以上に上昇してくる。関税は消費税と同じくコストアップ要因なのである。こういったコストを価格に転嫁できる企業は限られているからだ。
 米国の企業収益は、今年に入って好調だが、これは減税効果が大きい。税引き前利益でみると減益だ。先行きに自信のもてない債券市場では、長期金利の上昇が限られ、短期金利が引き上げられていくと、長短金利差が消えていく。これはバブル崩壊に向けて株価の下落を促すだろう。
 大幅な減税と財政支出という需要政策で景気が支えられる時間は限られている。リーマン・ショック後の超金融緩和政策のやり過ぎがとがめられてきているのだ。
2018 / 09 / 07  07:00

新聞掲載情報

2018年8月31日 日本経済新聞『十字路』

金融正常化と新興国バブル
 米国の金融正常化は、新興国から先進国への資金の還流を促し、新興国通貨を下落させる。新興国は通貨防衛のための金融引き締めを余儀なくされ、経済の停滞を受け入れざるを得なくなってきている。インドやインドネシアがその典型的な事例だが、新興国経済の成長鈍化は、資源価格、とりわけ原油価格に大きな影響を与えることになる。
 これまで十数年間、先進国の石油消費量は緩やかに縮小してきたが、他方で中国やインドなどの需要拡大で世界全体では増えてきている。この新興国の需要が経済の低成長化とともに増えなくなってくると、需給は緩み、石油価格を下落させる。これは中東産油国の政治体制を不安定化させ、供給不安から原油価格を高騰させるリスクが大きい。
 イランによるホルムズ海峡閉鎖のリスクもそうだが、原油価格が高騰すると、一時的な混乱は別として、節約と代替エネルギーへの努力が一段と進み、脱石油時代の到来を早めることになる。環境問題からすると、これは望ましいシナリオだが、その過程で中東だけでなく、新興国の政治経済の動揺は大きなものにならざるを得ない。債務問題は一段と深刻化するであろう。
 米国や欧州、日本の中央銀行による超金融緩和政策は多くのバブルを作り出した。なかでも大きかったのが、新興国の高成長バブルである。先進国から資本を取り入れ、工業化投資を急ぎ過ぎたのだ。中国の過剰設備、過剰債務もそうだが、金融の正常化という引締めが始まると全てが逆回転してしまう。外国資本に頼る成長の脆さだ。
 バブルということでいえば、先進国の不動産や株価もあるが、最初にはじけてきたのが新興国バブルだといってよい。弱いところから始まるのだ。この調整の先にある次の時代の前向きのシナリオが構築されなくてはならない。

 

2018 / 07 / 12  07:00

新聞掲載情報

2018年7月11日 日本経済新聞『十字路』

米国ファーストのドル不足
 米国ファーストの経済政策は、中国をはじめとする新興国に大きな打撃を与える。経済政策のなかでも、減税と金融引き締めが、貿易摩擦以上に打撃を与えてきている。ドル不足である。
 昨年末に成立した税制改革によって、米国の多国籍企業が海外に滞留させていた留保利益(約2兆ドル)への1回限りの課税と、新たに発生する利益に対する非課税措置によって、マネーの流れが大きく変化している。これまでは、米国に持ち帰ると35%の税を払う必要があったが、海外に留保したドルも新規のドルも非課税で持ち帰ることが出来るようになったからだ。
 昨年第4四半期には、3010億ドル(年換算)海外に留保していた利益が、本年第1四半期には、6330億ドルの米国への送金となった。1兆ドル近い逆転だ。海外銀行のドル預金がそれだけ減少し、海外市場でのドル不足が顕在化、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)3ヶ月物も2.3%まで上昇している。
 さらに大幅減税と財政支出の増加による国債の発行増に加えて、FED(連邦準備制度)が量的引き締めに変わり、国債の売却を始め、市場への国債供給を増やし、海外投資家の資金が吸収されている。
 このようなドル不足は、米国が超金融緩和政策でドルを海外に垂れ流していた時代に、高成長を遂げてきた新興国には極めて厳しい。資本の流入と新興国自体の積極的な金融緩和政策によって、債務が異常に拡大してきたからだ。
 ドル不足とドル高は新興国通貨の下落を招き、金融と財政の引き締めを迫る。民間企業部門の債務のデフォルトが、これから大きく増えてくるだろう。米国発の貿易摩擦は、このネガティブな動きを加速させる。米国ファーストに対して、その他世界もまた国内重視政策に回帰しなくてはならないのである。
2018 / 06 / 25  00:00

補足資料を追加しました

2018年6月7日 の日本経済新聞『十字路』に掲載された
「ポピュリズムを侮るな」について、補足資料を追加しました
詳細はhttp://nier.co.jp/free/libraryをご覧下さい。
2018 / 06 / 08  07:00

新聞掲載情報

2018年6月7日 日本経済新聞『十字路』

ポピュリズムを侮るな
 ポピュリズムの台頭は、エリート層による統治の長期にわたる失政に起因する。経済の活力が構造的に失われた結果といってもよい。これまでの半世紀を振り返ってみると、家計所得が伸びなかったことが最大の問題である。
 米国の実質賃金を製造業労働者の時給でみると、1970年以降、ほぼ半世紀にわたって横ばいである。(年率0.1%)。実質国内総生産(GDP)は2.8%、消費は3.0%伸びている。賃金が伸びないなかで、GDPを上回って消費が伸びたのはマネーの持続的な増加によって、住宅ローンや消費者ローンが増え、他方で住宅価格や株価の上昇による資産効果が大きかったからである。
 このバブル的な経済の成長は、2つの面で限界を迎えようとしている。1つは、資産バブルの行き過ぎである。富裕層に限られているとはいえ、家計資産は可処分所得の6.7倍にも達している。
 もう1つは、債務の増大である。米国の債務は、1970年のGDP比147%から、2008年には380%まで上昇し、その後、直近の347%まで低下したものの、異常に高いままだ。また、長期にわたるマネーの増大は、ドル安を通じて、米国からの資本流出を促しただけでなく、新興国が大胆な金融緩和政策を採ることを可能にし、その成長を加速させてきた。中国がその典型である。
 米国の金融正常化は、すでにスタートして2年半が経っているが、着実にファンダメンタルズの弱い新興国や企業の資金繰りを悪化させている。トルコやアルゼンチンの通貨下落や金利の急上昇だけでなく、中国でも社債のデフォルトが増え始めている。
 過剰債務が世界中にはびこるなかで、ドル不足は着実に進行してきている。ポピュリズムの火はますます拡がって行くだろう。
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2018.11.14 Wednesday