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2017 / 11 / 10  00:00

新聞掲載情報

2017年11月10日 日本経済新聞『十字路』

金融政策の正常化は可能か
 世界経済の基調が弱いのは、サービス化が進み、生産性が上昇しなくなったからである。AI化の加速は製造業のような効率的な部門の生産性を一段と高め、その雇用を削減していく。一方で、介護や看護、外食といった相対的に非効率な部門では、生産性が上がらない中で雇用が増えていく。
 米国では、2007年から16年にかけて製造業の生産性は年率1.4%上昇したが、労働投入量は1.1%減と、雇用の減少が生産性の上昇をけん引した。逆に介護では労働投入量が2.8%も増えたが、生産性は0.9%下がった。製造業の生産性(時間当り付加価値生産額)73ドルに対して介護は18ドルと、73ドル産業から18ドル産業に雇用がシフトしたのだ。
 経済全体の生産性と賃金が上がらない中で経済が成長できたのは、ローンに頼って消費が堅調だったからだ。量的金融緩和の効果で不動産や株価が上昇し、その資産効果でローンが拡大してきた。結果的に、直近の家計の貯蓄率は3.1%とリーマン・ショック直前の07年以来の低さとなっている。
 中国もサービス化が加速している。10年代に入り、第2次産業の就業者が全体に占める割合が24%で横這いの一方、第3次産業は42%から49%に上昇、第1次産業は34%から27%に低下し、脱農業化とサービス化が進んでいる。ここでも最大の問題は、産業間の生産性格差である。第2次産業の生産性(1人当り付加価値生産額)1万5500ドルに対して、第3次産業が6800ドル、第1次産業は1900ドルでしかないのだ。
 米中だけでなく、主要国の生産性は上がらなくなった。この経済を超金融緩和政策で支え続ければバブルが拡大するだけだ。しかし、これを是正するリスクもまた大きく、政治は本格的な正常化も改革も出来ないだろう。
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